&

  映像研究

だいたい曇っていて時折しっとりとした雨が降り出すような期間の備忘

 
・全く抑揚のない平らな雲を見上げる夏。曇っている。曇っているよりも晴れている方が断然良いが、もはや抑揚があれば何だって良い。少なくとも抑揚。そう思っていると雷鳴。雷鳴すら良い。ところで週間予報のあの「しばらくは曇りですけれども、そうですねぇ…一週間後くらいには晴れるんじゃないでしょうか?」という希望的観測としての予報は悲しい。その「一週間後」は、いつもでもずっと「一週間後」であり続けるというパターン。永遠に「一週間後」に辿り着けないのではないかという不安。そのようにして本来ならば、大きな音で夕立が降り出したり入道的な雲が真珠色に散らばっているはずの期間の備忘録。



・軒下にはたいてい燕の巣がある。冬に灯油を買っている商店の軒下にも燕の巣。シャッターが下りていた数日前に軒下でじっと上を見つめる小さな女の子。通りすがりの自分も思わず覗き込んで見上げてみたならば「燕が、巣をつくっているんです」と嬉しそうに、きれいな発声で、教えてくれた。そして「すごいですねー」と飽きることなくうっとりしていた。よく見るとうっとりするほどずっしりとしている燕がどっさりと巣に住んでいて「君たちは、もう飛んだらいいよ」という感じの成長をしていた。そのように甲州街道沿いの商店の軒下にはたいてい燕の巣。カメラが設置してあって「燕を見張っています」という張り紙がしてあったりするのはちょっと興味あり過ぎだと思うけれども、いずれにしても高尾駅前はたいてい燕の巣に寛容だ。



・天候が不順であるならば不順であるなりのグルーヴに乗っかって、今はただ本を読もう。気がつけば謎の読書の波がやってきている。同時に数冊の本をパラパラしながらも、例えばその中の一冊は浅田彰という人の『構造と力』という本で、自分はその本のタイトルを相当前から知っているのだし、その本は相当前から自分の部屋のどこかにはあったのだし、場合によっては自分はその本を読んだことにして人と話をしていたりし兼ねないのだけれども、しかし一方で「そういう本に限って、結局自分は一生読まないんだろうな」と思っていたのだけれども、わっ、読んでる!(驚き)



・「昨日まで全然意味のなさそうに見えていた本が突然自分にとって意味がありそうに思えてくることとは何だろう?」ということから「昨日まで全然知らなかった人と今日は何だか友達になったりすることは一体どういうことなのだろう?」という木皿泉のドラマの設定のような事も考える。そしてそれが本である場合、例えば自分が今その読んでいる本の中にも、やっぱり同じようなことが書いてあるのも面白い。同じようなことが書いてあると思えることが面白い。学ぶことの継続と次々に偶然に出会う書籍について。あるいはそのような曲解かもしれない解釈を許すような、抽象度の高い、グルーヴィーな、つねに自分の目の前の少し先にあるような、文章を追いかけることが面白い。わからない言葉を追いつめるような読み方も面白い。



・「リゾーム」という言葉を知っていたが、意味がわからなかった。わからなかったというか知らなかった。「リゾーム」にそれほど興味がなかったのだと思う。しかしリゾームって。今までは読んでいる文章に「リゾーム」というよくわからない言葉が出てきたときには、例えば「おしゃれ」という言葉を代入しながら読んでいたのかもしれない。「リゾーム」に限らず、よくわからない言葉が出てきて困ったら「おしゃれ」を代入するという方法もあるかもしれない。あるいは「複雑で、何か、良いもの」くらいのもう少しぼんやりしたイメージをあててみる。それは翻訳のような読書かもしれない。代入してみる。読んでみる。意味が繋がりそうだったらそのまま読む。何か変だなと思ったら思った地点で立ち止まる。あるいは立ち止まらない。そのようにして読書。



・今読んでいる宇野邦一という人の『ドゥルーズ 流動の哲学』という本には「『リゾーム』(根茎)とは、タケやハスやフキのように横にはい、根のように見える茎、地下茎のことである」と書いてある。そしてしかしそれは「樹木」とは「秩序や序列や規則がある」ことにおいて対立する概念であると書いてあった。そしてまた「リゾーム」は「全体を統合する中心も階層もなく、二項対立や対称性の規則もなく、ただかぎりなく連結し、飛躍し、逸脱し、横断する要素の連鎖があるだけである」ということらしい。そして『ミル・プラトー』という本では「ドゥルーズ=ガタリは(略)もう一つの秩序(リゾーム)に固有の特性があるということを、文学・芸術や社会学歴史学をモデルにし、さらに植物や脳や遺伝についての学まで引用して縦横無尽に論じている」らしいので、そんな面白そうな本は近いうちに読んでみたいと思うが、いかんせんあの辞書みたいな本だからなぁ。



・夏の始めに備忘録してみた当てずっぽうの、多分3割くらいはかすっていたのかもしれないと思う。答えはないなりに答え合わせをするように読書をしている気もする。きっかけは「あれとこれが似ている」「これとそれは関係がある」と思った、その感覚だった。そう思ってしまった事柄を、何故似ているのか/関係がありそうなのか考えてみて、その共通する原理のようなものを取り出すために本を読む。そもそもは「庭に植わっているストレリチアという植物が日々成長していること」と「アメリカの写真家が色々な題材を色々に撮影して作品を作っていること」と「例えば『世界共和国』とかを読んで考えた『社会の変化の仕方』」が、どう考えても関係があると思ってしまったのだった。それで今のところは「リゾーム」ということで。