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  映像研究

あ・ど・ば・た・い・ず・め・ん・と

 
・広告について。もう数年前のことになるけれども、広告をつくることを仕事にしている友達に「広告ってなぁに?」という質問をしたところ「それはつまり『広くしらしめる』ということです。」と返答された、ということをよく覚えている。広告を「物を買わせようとする」ということに限定するのではなくて、『広くしらしめる』ことであるとするのは、なかなか面白い定義だと思う。しかしそのような「広告」の定義を拡大することには、面白いなぁと思う部分と、危ういなぁと思う部分の両方があるのも事実です。


・それで、自分は「広告」というものにどこか警戒心のようなものも当然持っていて、だけれどもそれは「テレヴィジョンのコマーシャルに騙されないようにしよう」というようなこととはちょっと意味が違う。それは例えばSNSのようなものの中でのコミュニケーションや、オン・ラインで日記を書くようなことが、気がつくと自分自身の「広告」のようなものになっていること、そして「表現すること」と「広告すること」の定義が限りなく重なってくる結果として、気がつくと誰もが「思わず口をついたひとりごと」のような表現を、発想から、意識から忘れ去っていくことに対する警戒心というようなものです。


・例えば「受け手のことをきちんと考えた表現をしよう」というような言葉は、一見メディア・リテラシー的なメッセージとして非常に真っ当なことを言っているようで、しかし「コミュニケーション以前」とでも言うべきある種の「表現」を抑圧する力にもなっている。そしてそれは(広義の)デザインがアートに取って代わると信じられている/いた時代(00年代?)を象徴する考え方だと思うから、その中で今考えるべきことは、そのような状態(意識のレベルでも/社会の仕組みとしても)から、いかに別のあり方を想像できるかということなのだろう。



・さて、途中から完全に話が横道にそれましたが、そのようなせめぎ合いがありつつも『広くしらしめる』こと、という意味において、以下は紛れもない広告です。それは「楽しいこと、面白いことを一人でも多くの人と共有すること」を目的とした、不特定多数(あるいは少数)に向けた広告です。


・毎年12月2日、3日に行われる「秩父夜祭」というものがありますが、可能なかぎり可能な人は可能なかぎりの無理をしてでも全員それに行くべきだと強く思うのでここにお知らせします。西武線を乗り継いで、埼玉県は秩父市で行われるこのお祭りは秩父駅周辺の広範囲で繰り広げられるもので、奇麗な山車も走りまくり、各種屋台も盛りだくさん、シャカシャカしたジャージのヤンキー系女子も可愛らしい、世にも贅沢な祭なのですが、その中でも3日の夜の花火はなかなかちょっと圧倒的な何かなので、光や音/あるいは映像/あるいは空間演出デザイン/そして芸術/身体/運動/あるいはその他/名前のつけられない狂騒/狂乱/混乱/世界の秘密/宇宙の神秘…etc、そういったものに全く興味がなく、例えばニコニコ動画とモンスター・ハンター?的なものがあれば生きてゆけるよ俺というような人以外の全員が行くべき祭です。澄んだ空気の冬の夜空に花火が打ち上げられたならば、花火というのは真っ暗な中で物体が爆発する現象なのだ、ということが一瞬で理解でき、それは夏の蒸し暑い中でうろうろ歩き回ったあげくビルの合間からちらっと見えたか/見えないかみたいな(それはそれで楽しいけど)ものではなく、つまりそれは平面的な視覚だけの花火とは根本的に違った何かなのであって、光はあまりにも眩しく、そしてそれは空全体を埋め尽くして次から次へとこちら側に向かって来るように感じられて、立っていることがやっとなほどで、そして同時に、周囲の山々にぶつかった爆発音は色々な方向から身体全身を、比喩的な意味ではなく「震わせる」ので、それを見上げる私たちは、目を開けたり、目を閉じたり、飛んだり、はねたり、大きな声を出したり(たまや〜)しながら、その時間と空間を体験する。そしてまた、その町のあらゆる人々が、その、爆発する「その一点」を様々な場所から見つめて、思わずため息(白い)を漏らすような感覚を共有することなんかを思うと、物が「爆発する」というだけの全くの「現象」に、もう少し(あくまでも勝手に)今の時代に、時間に生きていて、この出来事が、この瞬間が、一体どんな意味を持っているのだろう?みたいな秘密が隠されているのではないかな、とか何とか思って、少しだけ敬虔な気持ちになる。「秩父夜祭」は私が思う限りにおいて、記憶している限りにおいて、そのような祭です。一週間後です。水曜日です。仕事の人もいると思います。でも行った方が良いです。面白いから。一人で行くのも良いですが、仲の良い友達を誘って行くと良いと思います。某コンビニエンス・ストアの駐車場が花火を見るのにオススメのスポットなのですが、あまりにも人が多すぎると大変です。そして恐らくは寒いです。普通に冷えます。靴の中に入れるタイプのホッカイロも効果的です。暖かくして行きましょう。それでは現地でお会いしましょう。