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  映像研究

もう春が来たという前提で近況

 
・職場の後輩から夏くらいからずーっと借りていて「いい加減、見るか、返すか、どっちかにしましょうか」と言われていたDVD、ゴダールの『愛の世紀』を昨夜とうとう観る。熱心にゴダールを観ているわけではないなりに、幾つか観ている自分としては「ある時期以降の作品に関して、前半全然わからないのだが、後半突如としてわかる、厳密に言うならば、わかった気になる、そして、わかってからはテンションが上がりっぱなしになる」というパターンがあって、今回の鑑賞も完全にそのパターン。「ハリウッド」とか「スピルバーグ」とか言い始めたあたりからぐいぐい来て、「北米の連邦国家って言ったって色々あるんですけど?」みたいなところも凄く良い。歴史=物語ることの、野蛮さ、浅ましさについて。そしてそれを正そうとすることについて。ここらへん『ゴダール・ソシアリスム』にももちろん繋がる部分として興奮。勢いあまってツイートしてしまった。『アワーミュージック』にももう一回挑戦したい。



・業務が一段落した日曜日。久しぶりの荻窪ささま書店にて、高橋悠治『きっかけの音楽』を見つけて購入。図書館で一回借りてぱらぱらしたものの、やっぱりちゃんと読み返したいと思っていたところだった。帯には「メモ=批評=詩」とあったけれども、メモでこそあれ、あるいは批評であるかもしれないけれども、これは自分の考える「詩というもの」とは少し違うようにも思った。もちろん部分的には、文章を読むときのリズムを意識したところもあると思うけれども、何というか基本的にあれらの文章は「わかりにくくなりがちなことを、わかりやすく書く」ことを目的としている、というように思える。あるいは「わかる」ということが適当でないならば「考えたことを適切に書く」という印象を持った。音楽のために、死者のために書かれた言葉は「詩のようなもの」であっても、それとはまた違う役割を果たしているのだと思う。



・ファッションのことを考えている。考えている、というか単純に春になると着る物が変わるので、それが楽しみで仕方がない。着る物のボリュームが変われば、からだの動きが変わってくる。ここ数年新品の衣料品を全く買わなかったけれども、この間ふと覗いた無印良品でレディースのチノパンを購入した。2300円。タックが入っていてテーパードしているメンズにはあまりないシルエットの物。強いて言うならば「ボンタン」のようなシルエットのズボン。「サルエル」と言うよりも「ボンタン」と言いたい。しかも腰履きしたい。春だから。月曜日に職場に行ったついでに伊勢丹メンズ館も鑑賞。何となく気にしているブランドの洋服を観る。最近やり過ぎの感がある「White Mountaineering」はどこまでマウンテンだと言い張るのか。あるいは毎シーズン楽しみな「kolor」だが、この春のボロボロのジャケットはどうなのか。など色々観る。そして散髪にも行く。春だから。今まで美容院を床屋のようにしか使っていなかった(伸びたら切る、の繰り返し)自分としては、部分的に長いところを残してもらったりすることも、些細なことだが新しくて楽しい。繰り返されることからずれていくこと。少しずつ、あるいは突然大幅にずれる。その理由は多くの場合「飽きた」から。



・日曜日には中野の劇場に「舞台版中学生日記」という芝居を観に行ってきた。ファンな女優が出ているから、という理由で駆け込み千秋楽に行ったのだけれども、あっという間の1時間50分で非常に楽しかった。「ああ、ああいうことあったなぁ」というエピソード的な部分ももちろんのこと、しかし個人的にはそれよりも身体的な意味での「中学生感」の再現の忠実さに見入ってしまう。あの「きれいに体重がスニーカーに乗っかってこない感じ」とか「上半身だけが目的の方向にくねくね動く感じ」とか「からだに対する手の置き所がわからなくて恥ずかしながらポケットに入れてみる感じ」とか、いちいち考えられていた。そして舞台の最後には合唱の場面があった。合唱は卑怯。合唱は最高。合唱があればそれだけで大体良い。しかしもしも合唱がなかったとしても面白かったのだからいずれにしても良かった。



・職場の受付の人が異常にお洒落なスケジュール帳を持っていたので「それ、良いですね。どこのですか?」とちょっかいを出してみたところ、自分で作ったという。自分は「システム手帳」という逃れ難いシステムに拘束されているので、スケジュール帳は新調できないので、同じ方法でノートを作ってもらった。クラフト紙に脈絡があるような無いような諸々がコラージュされていて、中の紙は一枚一枚紅茶の染みがランダムにつけられているというARTYなノートブック。しかも驚くべきことにすべて職場の不要品、廃材、端的にゴミでできた物だという。いやぁ、凄いですね、ありがとうございます。とお礼を言って、これがこの春の予定を記入するためのノートブックになった。とりあえず春へ向けてやるべきことをリストアップ。読むべき本もリストアップ。そしてこの春からは基本的に週単位で時間割を立てようと思うので、その計画も進める。有限なお洒落ノートブックはevernoteとは対極の物体だ。ちなみに別の職場の受付の人は宮本常一の本を読んでいたので、そちらにもちょっかいを出す。ちょっかいから色々なことが生まれる。