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  映像研究

バック・パッキングはつづく。

 
・2010年8月末。真夏日がつづき、全然終わりらしくない夏の終わり、私たちはバック・パッキングに出かける。



・去年は上高地から涸沢そして奥穂高へ。そして今年は上高地から槍沢そして槍ヶ岳へ。全く同じスケジュールでも今年は色々なことが違う。たとえば天候が違う。完全な青天、そして俄雨、また青天。去年はずっと霧の中を歩いていたようなものだから、その違いははっきりとしていた。はっきりと見えるのは槍ヶ岳の槍部分。途中から見えたその先端を眺めて、おお、あそこに登るのだなぁと思いながら歩いて行く。



・日差しは強く夏のようではあるけれども、風は乾いていて秋がやってくることを感じさせる。水辺に立つと尚更涼しい。



・私たちが上高地に着いた29日、ちょうど「涸沢フェス」というイベントの最終日だったようで、上高地から横尾までの道すがら、フェスらしい?人たちと多くすれ違う。アウトドア界隈では「山スカート女子」という冗談なんだか機能的なんだかわからないカテゴリーがありますが、去年はほとんど見かけなかった(故にそれは実在しないファンタジックなものだと思っていた)山スカートの女性がたくさんいらっしゃった。女子だけでなく男子も含め、「総柄」「マルチ」「蛍光」のオンパレード。そういうファッション全然嫌いではないですけれども、ハレの衣装が溢れてしまうとそれはケになってしまうという意味でちょっと複雑な気持ち。山部一同、「自分もこの一味なのだな」と胸に刻む。



・山で(少し遅れて)誕生日を祝ってもらった。涸沢フェスに負けない5人(+ボイス・メッセージで2名参加)での槍沢フェスは高密度の盛り上がり。感謝する。



・それにしても槍ヶ岳は素晴らしかった。素晴らしく面白かった。梯子と鎖で切り立った岩を登り…と書くとそれは大袈裟に過ぎるけれども、ともかくそれを登ってゆく。変化しつづける風景。登るということは重力に反したことなのだなと思う。槍ヶ岳に登ったならば当然槍は見えない。周りの色々な山、遠くの富士山的な山、雲。色々なものが見える。天候はよくても雲はどんどん動いていくから見えるところ、見えないところは移りつづける。カメラを手に、おお、今度はそっちが晴れた、とか言いながら槍の頂上をうろうろしていた。それもまぁ比較的空いていたから可能な楽しみ方なのだと思う。



槍ヶ岳の頂上にいらっしゃった山の先輩、中高年ハイカーの方々に「いいわねぇ、若い方は」と声をかけられ「若い人はがんばって働いてちょうだい」「私たちの年金のためにもね」わっはっは…という個人的には何の悪意もないと思われる会話に、やや引っかかるところがあったような部員もいたようです。これが山の世代間格差か(嘘)。来月はスイスに行くんですよ、と遠くで聞こえたような気もした。スイスか…。しかし焦る必要はない。私たちには(仮に)お金が無かったとしても、その代わりに創意工夫があるのだと思うことにしよう。持ち物からスケジューリングまで、あらゆるところに多くの工夫があるのだと思う。その工夫の結果前日に友だちの家で仮眠しなければならず「24時間テレビ」を観賞してしまうようなことがあっても。それもまた或る時間だ。そしてひとりでは絶対に来られないという、その条件から生まれる可能性もあるのだった。たぶん。



・「殺生ヒュッテ」というノイズ・ユニットのような名称のテント場にスペインからの男女2名ずつの旅行客がいて、語学が堪能な山部メンバーが話しかけていた模様(先に寝てしまっていた)。3週間で富士山、熊野古道、北海道…と日本中を旅行しているらしく、そのバイタリティに素朴に驚く。槍ヶ岳にも「ちょっと動きやすい」くらいのファッションで、全然ホーム・センターで売っているようなテントで来ていて、それがすごく自然に「行ってみたところに来てみた」というかんじで良かった。



・鞄に荷物を詰めること、パッキングそれ自体がどんどん機能的に、効率的になっていけば、迷いなく作業をすることができる。その「機能的になっていく自分」を楽しむこともできるし、しかしそれを、ある方向から考えて少し退屈だと思ったりもするのならば、そこから次の楽しみに発展させるきっかけにすることもできる。時間をかけてある距離を移動するというシンプルなアクティヴィティについて、おそらく一人ひとりが微妙に違ったニュアンスを持っているのは当然で、それをすり合わせながらながら行動するというところが面白い。特に私たちはそのアクティヴィティを記録するということも重要な要素であるのだから、だからこそこの行程に意識的になる部分もある。しかし同時に取り逃がしてしまっているであろう何かもあるのだと思う。それが何か。それをこの秋からの課題としようと思う、というのが今回の結論。



・結論を持ち帰って秋の東京に帰ったつもりが、予想どおり予想以上に、絶え間なく暑い。