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  映像研究

バランス

・後から書いておく木曜日の記録。

 

・朝思い立って渋谷の映画館で、濱口竜介監督『悪は存在しない』を鑑賞する。前半の自然の描写から緩やかに中盤の人びとの語りに移行する。突然切断されるようにして結末。呆然としながらしかし劇中の「バランス」という言葉が物語全体に浸みとおるように思い返す。それは神話におけるバランスに関わる出来事とも思う。

 

・ここちの良いもの、ゆるされたあるいは認められたと感じられるような心理、一元的に包まれるような感じ、などとは異なる原理がある。バランス、とは生が拮抗する即ち動き続ける状態と思う。自然のバランスとは本来物語的な結末をもつものでもないのだろう。一人の人の小ささを考えて、しかし同時に一人の身体のうちにはすべてがある、というふうに考えることもできる。また善と悪の対でもないように、聖と俗の対でもない。バランスについて考えることが、考え続けることができる。

 

・午後から業務。準備、授業、会議で22:30まで。この目の前の一見瑣末な諸々の出来事のうちに、自分が善く生きるためのテクストがある、と信じることをもう少し続ける。

 

・気がつけばまた別の身体の様子に、また別の思考のタームに移っている。生活の諸々をぼんやり描いておくことで後にその変化が分かることを面白いと思いつつ、もう少し具体的に思考のメモを書いておいても良いのかもしれないと考えた。物語ではなく。