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  映像研究

いまこのときも、原子力発電所が作られようとしている場所へ行く:2

 
・3月23日の今日は何曜日だろう。祝島の民宿で目を覚ました。旅行中に宿で目を覚ますことが好きだ。知らない天井を見上げる。荷物をまとめて民宿のおばさんからお弁当を受け取って出発する。今日は祝島から本島の方にフェリーで戻っていよいよ田ノ浦へ行くのだった。田ノ浦へのアクセスについては事前にT夫妻がリサーチしてくれていた。県道から現地へ行く道へ入るところで警備会社の人が立っていたことに、一瞬ひるんでしまったのだけれども(もしやつまみ出されるんじゃないかと思った)「ログハウスに行きます」と言うと普通に入れるのだった。そうしてくねくねとした山道をしばらく進み「ここを原子力発電所を建てるような建材を運ぶトラックが通るのはさぞかし大変だろうなぁ」と呆れてしまうようなタイミングで車を止めるポイントに到着する。ここにも警備会社の方。「お仲間の方だったらその道の先だよ」と教えてくださった。そのとてもマイルドな物腰と微妙なニュアンスを含んだ「お仲間」というフレーズを忘れられない。しかし全然嫌な感じではなくて、予想はしていたけれどもまったく敵対するかんじではない。ただその場所を「警備」しているのだった。


・そうして「団結小屋」という普通に普通のおしゃれなログハウスへ辿り着きノックしてみる。「こんにちは」と挨拶をして、田ノ浦の今の様子を知りたくて、そしてここで監視を続けている人に差し入れをしたくて来た旨を伝える。そうして21日に工事が再開されてからずっと小屋にいたというYさんから、小屋から浜辺へ出る道を歩きながら現状を教えてもらう。震災があって福島原発の事故が起こって以来工事は一時中断していると伝えられていたが、実際のところはとてもそのような楽観的な状況ではないということを聞く。「調査」という名目で日々「発破作業」が行なわれているのだという、そのまさに話を聞いているそのときにも「10・9・8・7…」とカウント・ダウンが始まり、恐らくは砂浜に使近い海底なのであろう爆発が小さな揺れとして感じられる。その作業が一日に何度も続いているということを聞けば、その状況はまったく「一時中断」というようなものでもないような気がする。


・そうしてちょうど僕らが訪ねた前日の22日には中国電力本社にあらためて作業の中止を求める申し入れを行なったらしいのだが、結論としては「全然止める気がない」とのことだったことも聞いて、脱力しつつ震える。脱力しても仕方がないし、震えたって仕方がない。そして作業している人は(恐らくは)「敵」と呼ぶべき人ではないのだ。色々なことを冷静に理解しようと努めつつもそれが難しい。


・そうしてしかしその「田ノ浦」でスペシャルでファンタスティックなサプライズが起こる。田ノ浦の砂浜には監視をするためのテントや小屋などもあったのだからYさんに「あの小屋には今はどなたがいるのでしょう?」と尋ねたところ「東京からギターを持ってやって来たミュージシャンの…えーとNくん」と聞いて、その小屋に入ってみたならば、そこで毛布にくるまりぐっすり眠る人は、そうだ、僕らが去年の秋に行なったフェスティヴァルのラストを飾ってくれたNくんなのだった。軽い寝起きドッキリ的再会の後、お互いどうして今この場所に来たのか、話をする。やはり疎開を兼ねて西日本に来て、3日前からここにいるというが、すっかりこの場所の住人でもあるようなNくんは、自分の知らないような色々なことを話してくれた。色々なことを勉強している様子だった。ノートやウェブからプリントアウトした資料を見せてもらう。勉強だ。しかし(多分)Nくんがここに来たのは「直感」なのだと思う。そしてその直感を自分は面白いと思う。別に「田ノ浦に来ているから感度が高い」とかそういう話ではなくて(そういう話はそれはそれで大好きですけれども)、どこにいようと、どこに移動しようと、3月11日以降に起こったことから何かを考えて、勘を働かせて、そうして(場合によっては新しい)生活を営んでいる人と話すと、少し安心することが出来る。そのような出会いがあった。


・そうしてこの砂浜のテントで自分だけ一晩寝かせてもらおうかとも一瞬考えたけれども、やはり今日帰ることにする。「西日本の旅・2011春」は始まったばかりだ。残念ながら27日の朝には東京は新宿にいなくてはいけない自分としては、ひとつの場所にしばらく滞在することに意味を感じつつも、動き続けて書き続けながら色々な人と会って話をすることの方を選んだ。そうして色々な話をしながら帰る。夕食は広島ICで降りて「お好み村(だっけ?)」でお好み焼きを食す。最高。その後西条の親戚の家へ帰る3人を見送り、広島市内のビジネスホテルを予約する。携帯電話からインターネットして適当に適当な価格のビジネスホテルを予約して、詳細な場所を教えて欲しいのですが、と電話してみたならば「えーと、中国電力の本社があるのですがそれの隣です」との返答。何かの因果を感じつつも、そうか確かに路面電車の駅には「中電前」とあったのだった。ホテルへ着きまとめて備忘録するつもりが即就寝。