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  映像研究

夏の終わりの夜、東京。

・2022年の夏の名残り。消えゆく夏を記録する。3泊4日の旅行から帰る日。午前に友人たちと現地でわかれて中央高速を東へ。小淵沢から自宅まではちょうど2時間。洗濯機を何度も回して遅めの昼食を取りながら荷物を片づける。今日はまだ半分旅行のような気持ちで過ごすことが許されている。

 

・夕方出かけて神田のラボへ。旅行中に撮影した3本のフィルムの現像をお願いする。自宅に送られてくるのは9月1日。8月の終わりに撮影した写真を見ることができるのは9月。季節の変化の最中に生きている。

 

・夜は家族と吉祥寺で集合。MANDA-LA2。ちょうど二ヶ月前に予約したライブを観るために。どのような種類のイベントであれそれを準備し始める時には、その日が来ることも、まして終わることも想像できない。その日が来た。「8月25日といえば夏も終わりだな」と思いながら日付を記憶していたから、やはり今日は夏の終わりだった。

 

小西康陽という人の活動を(再び)注目するようになって5年くらい経つだろうか。2016年から2017年のどこかのタイミングで『11のとても悲しい歌』を手に取った。それから車の中ではいつでもピチカート・ワンのCDを聴けるようにしている。何かの最中ではなくふっと息をついた時間や季節にその音楽を聴いている。2020年の夏に疫病について今以上に不安を抱えていた夏の終わりに、車で甲州街道を走りながら、意識をクリアに保つことができたのは、『わたくしの二十世紀』という音楽の力だった。そしてその夏に辛うじて楽しみを与えてくれたのは『前夜』という一枚のCD(サイン入り)だった。言葉とメロディと楽器の響きがひとつの楽曲になる。その音楽に慰められて、勇気付けられて、生きていると思う。

 

・ピチカート・ワンの音楽と最近になって聴き直すピチカート・ファイブの音楽から引き出す主題は「東京」ということ。地理的あるいは概念的な場所ではなく、自分と東京という街との間の何らかの結びつきについて考える導きとなる。または「大人」ということとも関係している、と言えるだろうか。大人になること。大人になることに絶対的な瞬間はなく、ゆえに大人になり続けること。一方で未だ大人とは言い切れないこと。それでももう一方では歴然と大人になってしまったこと。大人になりゆく自分が他者=大人を眼差すこと。そういう諸々の感情が浮かぶのは、はじめてピチカート・ファイブの音楽と出会った1990年代には、今よりも自分に子供の要素が強かったからだろうか。

 

・そういう諸々の事を考えながら中央高速を走っていた。音楽は聴かずに。

 

・ライブの空間は楽しくあたたかった。ノラオンナさんの演奏も良かった。会場を見まわしておそらく自分よりも年齢が多い人たちが大半であるように感じて、安心したような気持ちになる自分がいる。何歳であろうが時々は「大人の集まりに背伸びをして紛れ込んでしまった子供」でありたい。そしてそうした感じが許される場に身を置きたい。

 

・そしてその場所で『東京の夜は七時』や『美しい星』を聴く。『むかし私が愛した人』も。ギターを弾きながら。時にピアノを弾きながら。言葉を書いた人自身の声で発声されるから喜びと驚きがあるのだろうか。小西さんは途中のMCで「弾き語りの良いところはリズムが自由であるから」というような意味のことを話されていた。時に演奏中に言葉やコードを思い出すような間が生まれる。一曲が演奏される中に無数の想起がある、と言える。振り付けられた何事かを再現するための舞台ではない。(再)解釈=表現が次々に現れ続ける。その演奏に確かに自由を感じる。

 

・年齢が少ない頃に聴いた音楽を聴き続けること。あるいは年齢が少ない頃の感受性に影響を与えた音楽家の姿を追うこと。特に「スター」とされる人たちの姿を追うこと。自分はどこかでそうした姿勢に照れのような気持ちを感じていたかもしれない。自分の過去を重ね合わせてコンテンツを消費することに後ろめたさのような気持ちを感じていたかもしれない。自覚していなかったけれども、その考えが改められたことによって、むしろはっきりと理解できた。

 

・演奏はいつでも現在の出来事で、それは音楽家にとって、現在をどのように生きるのかという問いに対する姿勢でもある。そして、そのような姿勢を見て聴くことを求める人たちも、自分自身の現在を生きている。自分自身の現在は、その現在が持続する方へ伸びていく。言葉として浮かぶことはなくても、「もう少しだけ自由でありたい」などと願いながら。それは年齢が少なくても多くても変わらないということに気づいた。「演奏」や、「ライブ」ということの意味が少しだけ開けたように思えた。

 

・23:00に帰宅する。駅から家までの道には秋の気配。

 

 

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