・「フィロデンドロン」と声に出してみてもすぐに忘れてしまいそうだから文字に残しても良い。フィロデンドロンは駅前のスーパーの上の階の100円均一の店に置かれていた。初めての一人暮らしの際に同じように100円均一の店で「ストレリチア」を購入して、数年ともに生活し育つに従って鉢が大きくなり、最後は高尾の家の庭に植えた。あのストレリチアはどうなっただろうかと久しぶりに考えながら、新しい年度の新しい季節に、新しい植物を招き入れてみる。フィロデンドロン。どういう言語のどういう意味なのか。それは名前だからフィロデンドロンと呼ばれるこの植物が生きているという事実それ自体とは本質において関係がないが、もしもこの植物へ眼差しを向けるならばその名前からはひとまず自由になれそうになかった。フィロデンドロン。ふっと静かな気持ちになった瞬間にはフィロデンドロンの事を思い出して水を土に注ぐ。
