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  映像研究

すいかから遠く離れて

・朝職場に向かう京王線の中でふと『すいか』のことを思い出す。そのドラマが放送されたのは2003年の夏のことだった。大学5年生という身分がよくなかったのか、それまで展望なく生活してきたことと向き合わざるを得なかったのか、色々なことが重く感じられた夏に、『すいか』は、あり得るかもしれない、もうひとつの生活のイメージを映し出した。干からびた植物が水を吸い上げるようにテレビドラマを鑑賞したことは少なくとも今に至るまであの一度だけだったと思う。DVDボックスを購入してから何度も再生し、すべてのシーンを覚えてしまうほどに繰り返し視聴していたのは2000年代半ばだろうか。とりわけあらゆる問題が異様な密度で凝縮された3話は100回くらい見たのではないか。そしてもうしばらく『すいか』を見ていない。

 

・「もうひとつの生活のイメージ」とは、死んでしまうことや、死んでしまった者の側から、この世界のありようを眼差すことでもある。2003年に強く惹かれた理由が、今もう少しだけわかるようになってきた。ともさかりえ演じる絆さんは20代後半、小林聡美演じる基子さんは30代半ばという設定だったから、気づけば彼女たちの年齢を通りすぎ、このまま自分はどんどん浅丘ルリ子演じる教授の年齢に近づいていくのだろう。あるいは教授の友人のお豆腐屋さんの女性にも。いつか病院の屋上で「生きてみないとわからないことばっかりだった」と口にするのだろうか。自分がこの世を去ることを知った者として、あるいは友人としてそれを見送る者として、あの場所に立つことがあるだろうか。

 

・しかしその前にやることは山のようにあるのだろう。「いつもありがとう。感謝してる。」と言わされる(言う)基子さんの上司のようなことを、さしあたり今の自分はすべきなのだろうかとも考える。

 


すいか 03 キャスト:小林聡美・ともさかりえ・市川実日子・浅丘ルリ子・小泉今日子 FC2 Video